派遣元事業主は、労働者を派遣労働者として雇い入れようとするときは、あらかじめ、当該労働者に対し、文書の交付等により、労働条件に関する事項を明示するとともに、労働者派遣法第30条の3(均等・均衡待遇の確保)、第30条の3第1項(一定の要件を満たす労使協定に基づく待遇の確保)、第30条の5(職務の内容等を勘案した賃金の決定)の規定により措置を講ずべきこととされている事項に関し講ずることとしている措置の内容を説明しなければなりません(労働者派遣法第31条の2第2項)。
派遣労働者の労働条件は、営業や派遣労働者を管理する仕事等に従事する労働者に比べて、個々の事情に応じて多様に設定されることが多く、派遣労働者の雇入れ後に労働条件に関する疑義が生じることも少なくありません。また、そもそも派遣元事業主が派遣労働者についてどのような雇用管理の改善等の措置を講じているのかについて、派遣労働者が認識していない場合も多いと考えられ、こうしたことが派遣労働者の不安や不満につながっていると考えられています。
このため、派遣労働者の待遇に関する納得性を高め、紛争の防止を図れるよう、派遣元事業主に対し、労働基準法第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のもののうち、特に派遣労働者にとって重要である労働条件に関する事項の明示義務を課すとともに、派遣労働者の待遇について措置を講ずべきこととされている事項に関し講ずることとしている措置の内容の説明義務を課すものであります。
明示すべき労働条件に関する事項
明示すべき労働条件に関する事項は、次の事項であり、これらは事実と異なるものとしてはならないこととされています。
- 昇給の有無
「昇給」とは、一つの労働契約の中での賃金の増額をいう。したがって、有期労働契約の契約更新時の賃金改定は、「昇給」に当たらない。
「昇給」が業績等に基づき実施されない可能性がある場合には、制度としては「有」と明示しつつ、あわせて「昇給」が業績等に基づき実施されない可能性がある旨を明示することが必要です。また、「賃金改定(増額):有」等の「昇給」の有無が明らかである表示をしている場合には義務の履行といえるが、「賃金改定:有」と表示し、「賃金改定」が「昇給」のみであるか明らかでない場合等の「昇給」の有無が明らかでない表示をしている場合には義務の履行とはいえないこととされています。 - 退職手当
「退職手当」とは、労使間において、労働契約等によってあらかじめ支給条件が明確になっており、退職により支給されるものであればよく、その支給形態が退職一時金であるか、退職年金であるかを問われません。「退職手当」が勤続年数等に基づき支給されない可能性がある場合には、制度としては「有」と明示しつつ、あわせて「退職手当」が勤続年数等に基づき支給されない可能性がある旨について明示することが必要です。 - 賞与の有無
「賞与」とは、定期又は臨時に支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないものをいいます。「賞与」が業績等に基づき支給されない可能性がある場合には、制度としては「有」と明示しつつ、あわせて「賞与」が業績等に基づき支給されない可能性がある旨を明示することが必要です。 - 協定対象派遣労働者であるか否か(協定対象派遣労働者である場合には、当該協定の有効期間の終期)
- 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項
「派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項」とは、派遣労働者の苦情の申出を受ける者、派遣元事業主及び派遣先において苦情処理をする方法、派遣元事業主と派遣先との連携のための体制等をいいます。

明示の方法
明示は、文書の交付、ファクシミリを利用してする送信又は電子メール等の送信により行わなければなりません(労働者派遣法第31条の2第2項、則第25条の16)。
説明すべき措置の内容
説明の内容は、次の1.~3.に掲げる内容となります。
- 労働者派遣法第30条の3の規定により措置を講ずべきこととされている事項に関し講ずることとしている措置の内容
派遣労働者の待遇のうち均衡待遇の対象となるものについては、派遣先に雇用される通常の労働者との間で不合理な相違を設けない旨をいうこと。派遣労働者の待遇のうち均等待遇の対象となるものについては、派遣先に雇用される通常の労働者との間で差別的な取扱いをしない旨をいうこと。 - 労働者派遣法第30条の4第1項の規定により措置を講ずべきこととされている事項に関し講ずることとしている措置の内容
派遣労働者の賃金及び賃金以外の待遇(労働者派遣法第40条第2項の教育訓練及び同条第3項の福利厚生施設を除く。)が労働者派遣法第30条の4第1項の労使協定に基づき決定される旨をいうこと。 - 労働者派遣法第30条の5の規定により措置を講ずべきこととされている事項
均衡待遇の対象となる派遣労働者の賃金について、職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項のうちどの要素を勘案するかをいうこと。
説明の方法
説明は、書面の活用その他の適切な方法により行わなければならない(則第25条の18)こととされています。派遣労働者が、派遣元事業主が講ずる措置の内容を理解できるよう、書面を活用し、口頭により行うことが基本です。当該書面としては、就業規則、賃金規程、派遣先に雇用される通常の労働者の待遇のみを記載した書面が考えられます。また、派遣労働者が措置の内容を的確に理解することができるようにするという観点から、説明に活用した書面を交付することが望ましいとされています。
一方、説明すべき事項を全て記載した派遣労働者が容易に理解できる内容の書面を用いる場合には、当該書面を交付する等の方法でも差し支えない。なお、待遇の内容の説明に関しては、就業規則の条項を書面に記載し、その詳細は、別途就業規則を閲覧させるという方法も考えられるが、派遣元事業主は、就業規則を閲覧する者からの質問に、誠実に対応する必要があることとされています。。
明示及び説明に関する留意点
- 有期雇用派遣労働者については、労働契約の更新をもって雇い入れることとなるため、労働契約の更新の都度、労働者派遣法第31条の2第2項に基づく明示及び説明が必要となる。
- 明示及び説明に当たっては、個々の派遣労働者ごとに行うほか、雇い入れ時の説明会等において複数の派遣労働者に同時に説明を行う等の方法によっても差し支えない。
- 労働者を無期雇用派遣労働者として雇い入れる場合、その時点では派遣先が決まっていない場合がある。
この場合の明示に当たっては、その時点で締結しようとしている労働契約に基づく昇給の有無等を明示すること。また、この場合の説明に当たっては、派遣先が決定されていない場合には、労働者派遣の役務の提供を受けようとする者から派遣元事業主への比較対象労働者の待遇等に関する情報が提供されておらず、具体的な説明は困難であることから、待遇決定方法に関する制度の説明で足りることとされています。