企業活動において、労働力確保の選択肢として「派遣労働者」を活用することは、もはや一般的になっています。しかし、派遣労働者を受け入れる企業様、そして派遣元として事業を営む企業様にとって、派遣労働者の「個人情報」の取り扱いは、極めて重要な経営課題であると同時に、専門的な知識が求められる分野でもあります。
本稿では、派遣事業を営む企業様が労働者派遣事業の「許可」を取得・維持するために必須となる「個人情報」の適正な管理について、具体的な要件や管理方法をわかりやすく解説いたします。
労働者派遣事業の許可要件と個人情報管理の深い関係
「労働者派遣事業」を適法に営むためには、厚生労働大臣からの「許可」を得る必要があります。この許可を得るためには、様々な「要件」を満たすことが求められますが、その一つに「派遣労働者の個人情報の適正管理体制が確立されていること」が明確に定められています。
単に派遣事業所の面積が20㎡以上あることや、財産的要件を満たしていることだけでなく、派遣労働者という個人の大切な情報を守るための体制が整っているかどうかが厳しく審査されるのです。これは、派遣労働者のプライバシー保護を徹底し、労働者の安心感を確保するための重要な措置と言えます。
この許可要件として、具体的にどのようなことが求められるのでしょうか。
派遣事業者に求められる「個人情報適正管理規程」とは?
労働者派遣事業の許可申請において、派遣元事業主は「個人情報適正管理規程」を策定し、提出することが義務付けられています。この規程は、単なる書式上の要件ではなく、派遣事業における個人情報の取り扱いに関する具体的なルールを定めた、事業運営の根幹をなすものです。
この規程には、主に以下の事項を盛り込む必要があります。
- 個人情報を取り扱う職員の範囲の明確化
個人情報を取り扱えるのは、誰なのかを明確にし、情報へのアクセスを限定することで、意図しない情報漏洩を防ぎます。 - 職員に対する研修・教育訓練の実施
個人情報保護に関する知識は日々更新されます。派遣元責任者を中心に、定期的な教育・研修を実施し、従業員一人ひとりの個人情報保護意識を高めることが求められます。 - 個人情報の開示・訂正・苦情処理の対応方法
派遣労働者本人から、自身の個人情報の開示や訂正、削除を求められた場合に、迅速かつ誠実に対応するための手続きを定めます。また、苦情があった場合の窓口や担当者を明確にしておく必要があります。 - 収集する個人情報の範囲の限定
派遣労働者の個人情報は、労働者の希望や能力に応じた就業機会の確保、または適正な雇用管理の目的の範囲内で収集・保管・使用することが原則です。厚生労働省の指針では、人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地、思想・信条、労働組合への加入状況など、特定の機微な個人情報を収集することは禁止されています。 - 派遣先への個人情報提供の限定
派遣労働者の個人情報は、派遣先企業に無制限に提供して良いわけではありません。労働者派遣法第35条の規定に基づき通知すべき事項や、業務遂行能力に関する情報など、必要最小限の範囲に限定して提供する必要があります。
これらの規程を定めることで、派遣労働者から安心・信頼を得られ、結果としてより良い人材の確保につながります。
派遣労働者の個人情報管理における物理的セキュリティの重要性
これまでの説明で、派遣労働者の個人情報を適切に管理するための規程策定や、従業員への教育の重要性についてご理解いただけたかと思います。しかし、個人情報保護は、ルールや意識の問題だけではありません。物理的な対策も極めて重要です。
労働者派遣事業の許可要件においては、個人情報を保管するための物理的な環境についても具体的な基準が設けられています。その一つが、「鍵付き個人情報収納庫」の設置義務です。
鍵付き個人情報収納庫の設置はなぜ義務なのか?
派遣元事業主は、派遣労働者の履歴書、職務経歴書、雇用契約書、社会保険関連の書類など、機微な個人情報を多数取り扱います。これらの書類には、氏名、住所、生年月日といった基本的な情報に加え、学歴や職歴、保有資格、さらには健康情報など、極めて重要な情報が含まれています。
万が一、これらの情報が紛失したり、許可なく閲覧されたりすれば、派遣労働者のプライバシーが侵害されるだけでなく、企業の信用失墜や、場合によっては法的責任を問われる事態に発展しかねません。
そのため、厚生労働省の労働者派遣事業の許可基準では、個人情報が記載された書類を、施錠できるキャビネットやロッカー、または施錠できる部屋に保管することが明確に義務付けられています。
鍵付き収納庫設置のポイント
ただ単に鍵付きの収納庫を置けば良いというわけではありません。以下の点に注意して運用することが求められます。
- 施錠の徹底: 業務時間中であっても、個人情報が保管されている収納庫は常に施錠することが原則です。離席時や業務終了時には、必ず鍵をかける習慣を徹底させましょう。
- 鍵の管理: 鍵の管理者を明確に定め、必要最小限の担当者のみがアクセスできるようにします。鍵の紛失がないよう、厳重な管理体制を構築することが不可欠です。
- デジタルデータの保護: 物理的な書類だけでなく、パソコン内に保管されている個人情報も同様に保護する必要があります。パスワード設定や、アクセス権限の制限、強固なセキュリティソフトの導入など、デジタルデータに対するセキュリティ対策も怠らないようにしましょう。
このように、鍵付きの収納庫を設置することは、個人情報保護に対する企業の真摯な姿勢を示すものであり、派遣労働者からの信頼を獲得するための不可欠な要素と言えます。物理的なセキュリティ対策を徹底することで、情報漏洩リスクを最小限に抑え、安心・安全な事業運営を実現することができるのです。
HRストーリーズ社会保険労務士法人では、労働者派遣事業の許可申請から、その後の個人情報管理体制の構築、運用に至るまで、専門家としてトータルでサポートいたします。
派遣事業の運営に関するご相談や、個人情報適正管理規程の策定・見直しにご不安をお持ちの企業様は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。私たちはお客様の事業の成功を、労務管理の側面から力強く支援いたします。
