労働者派遣事業許可要件(オフィスの要件)

「いよいよ念願の労働者派遣事業をスタートするぞ!」 そう意気込んでいらっしゃる事業主の皆様、事業の成功を心より応援しております。

しかし、その第一歩となる「労働者派遣事業の許可申請」、実はここでつまずいてしまう方が少なくありません。特に見落としがちなのが、事業所(オフィス)の要件です。

「とりあえずデスクと電話があれば大丈夫だろう」、 「自宅の一室で始められないか?」。そんな風にお考えなら、少しお待ちください。派遣事業の事業所には、法律で定められた明確なルールがあり、これをクリアしなければ許可は絶対に下りません。

なぜ事業所の要件は厳しいのか?

そもそも、なぜ国は事業所の要件を細かく定めているのでしょうか。 それは、労働者派遣事業が「人」を扱う非常にデリケートな事業だからです。

  • 派遣労働者の個人情報を守るため:履歴書や職務経歴書など、機微な個人情報を適切に管理する体制が求められます。
  • 事業の健全な運営を確保するため:誰でも簡単に始められるわけではなく、しっかりとした事業基盤があることを証明する必要があります。
  • 適切な労務管理を行うため:派遣労働者からの相談や面談に対応できる、適切な環境が必要です。

これらの目的を達成できる場所として、事業所が適切かどうかを厳しくチェックされるのです。

【最重要ポイント】事業所の面積要件:原則20㎡以上!

まず、最も基本的かつ重要な要件が事業所の面積です。原則として、事業に使用しうる面積が概ね20㎡以上であることが求められます。これは、単に部屋全体の広さではありません。事業に関係のない私物などが置かれているスペースは除外され、純粋に派遣事業のために使用できる有効面積で判断されます。

なぜ20㎡必要なのか?

20㎡という広さには、派遣元責任者が業務を行う執務スペースに加えて、派遣労働者との面談やキャリアカウンセリングを行うためのプライバシーが確保された面談スペースを設ける、という意図があります。

<ポイント> 単に広ければ良いというわけではなく、後述する「プライバシー保護」の観点から、そのレイアウトも非常に重要になります。

プライバシー保護のための具体的な要件

面積要件と並んで厳しく審査されるのが、個人情報を適切に管理できる環境かどうかです。労働局の担当者が現地調査に来ることもありますので、しっかりと対策をしましょう。

1.他の部屋から独立していること

派遣事業を行うスペースは、他の事業や居住スペースと明確に区分されている必要があります。

  • 良い例◎
    • 完全に独立した個室になっている。
    • 天井まであるパーテーションで仕切られており、入り口にドアがある。
  • 悪い例×
    • 居住スペース(リビングなど)の一角を事務所としている。
    • 背の低いローパーテーションやカーテンで仕切っているだけ。
    • 他の会社のオフィスと共同で利用しており、明確な区分がない。

2.面談スペースが確保されていること

派遣労働者の登録や面談を行う際、その会話が外部に漏れないように配慮されたスペースが必要です。

  • 良い例◎
    • 面談専用の個室がある。
    • 執務スペース内にパーテーションで区切られた面談ブースがあり、音声が漏れにくい構造になっている。
  • 悪い例×
    • 執務スペースの机で、他の従業員に会話が丸聞こえの状態で面談を行う。
    • カフェやオープンスペースで面談を行うことを前提としている。

3.施錠可能な個人情報保管庫があること

派遣労働者の履歴書や労働者名簿などの個人情報を、物理的に安全に保管するための設備が必須です。

  • 必ず「施錠できる」キャビネットや書庫、ロッカーを用意してください。
  • 誰でもアクセスできる棚に、個人情報に関する書類を置いておくことは認められません。

事業所の「場所」に関する注意点

どこにオフィスを構えるか、その「場所」にも要件があります。

風俗営業関連の場所はNG

風俗営業や性風俗関連特殊営業などが集まる地域に事業所を設けることは、事業の健全な運営にふさわしくないと判断され、許可が下りません。事前に事業所所在地の周辺環境を確認しておきましょう。

レンタルオフィスやバーチャルオフィスは要注意!

近年増えているレンタルオフィスやバーチャルオフィスですが、許可申請においては注意が必要です。

  • バーチャルオフィス:住所や電話番号のレンタルのみで、事業活動を行う実体がないため、原則として認められません。
  • レンタルオフィス(シェアオフィス)
    • オープンスペース型:不特定多数の人が出入りし、プライバシーの確保が困難なため、認められない可能性が非常に高いです。
    • 個室型:完全に独立した個室で、前述した面積要件やプライバシー保護の要件を満たせる場合は、許可される可能性があります。ただし、その場合でも共用スペースの状況なども含めて総合的に判断されるため、契約前に労働局へ相談することをお勧めします。

賃貸借契約書もチェックされる!

意外な落とし穴が、事務所の賃貸借契約書です。契約書の使用目的が「事務所」または「事業用」となっている必要があります。もし「住居用」となっている物件を事務所として使用する場合は、大家さん(貸主)から「当該物件を労働者派遣事業の事業所として使用することを承諾する」という内容の承諾書を別途もらう必要があります。

まとめ:事業所の準備は計画的に!専門家への相談が成功の鍵

いかがでしたでしょうか。労働者派遣事業の許可を得るためには、事業所が法律の要件をしっかりと満たしている必要があります。

要件項目チェックポイント
面積要件原則として、事業に使える有効面積が20㎡以上あるか?
プライバシー保護①他の部屋と独立しているか?(壁や天井までのパーテーション)
②会話が漏れない面談スペースがあるか?
施錠可能な個人情報保管庫があるか?
場所の要件風俗営業等が密集する場所ではないか?
レンタルオフィス等の場合は、実体と独立性が確保されているか?
賃貸借契約書使用目的が「事務所」「事業用」となっているか?
(住居用なら貸主の承諾書が必要)
代表・社会保険労務士
松山 剛

これらの要件は、許可申請の準備段階でクリアしておくべき非常に重要なポイントです。物件を契約して内装工事までしたのに、要件を満たしていなかった…ということになれば、目も当てられません。

「この物件で本当に大丈夫だろうか?」 「自分の場合はどう判断されるんだろう?」

少しでも不安に思われたら、ぜひ私たち派遣に強い社会保険労務士にご相談ください。最新の法令や行政の指導に基づき、個別の状況に応じた最適なアドバイスをさせていただきます。皆様の事業がスムーズに、そして力強くスタートできるよう、全力でサポートいたします。