労働者派遣事業許可要件(資産要件)

「これから労働者派遣事業を始めたい」 、「もうすぐ派遣許可の更新時期だ」。このようにお考えの事業者様にとって、避けては通れないのが「資産要件」です。労働者派遣事業の許可を得るためには、法令で定められた財産的基礎、つまり一定以上の資産を持っていることを証明する必要があります。

なぜなら、派遣会社には、何よりもまず「派遣労働者の方へ確実に給与を支払う能力」が求められるからです。万が一、派遣先からの入金が遅れたとしても、労働者への支払いが滞るようなことがあってはなりません。

なぜ資産要件がこれほど厳しいのか?

本題に入る前に、なぜ国が派遣事業に対して厳しい資産要件を課しているのか、その理由を理解しておきましょう。

  • 派遣労働者の保護: 最も重要な目的です。事業が不安定になり、給与の支払いが遅れたり、社会保険に加入させなかったりといった事態を防ぎます。
  • 事業の安定的運営: 健全な財務基盤を持つことで、派遣会社が安易に倒産することなく、継続的に事業を運営できることを担保します。
  • 責任の明確化: 労働者派遣は「雇用主」としての責任が伴う事業です。その責任を果たすための最低限の体力を求めています。

必ずクリアすべき!3つの資産要件

それでは、具体的な3つの資産要件を見ていきましょう。これらの要件は、直近の決算における貸借対照表(B/S)をもとに判断されます。

要件1基準資産額が2,000万円以上であること

最も基本となる要件です。「基準資産額」とは、会社の純粋な資産がどれだけあるかを示す数値です。

基準資産額=資産総額−(繰延資産+営業権+負債総額)

簡単に言えば、貸借対照表の「純資産の部」の合計額から、「繰延資産」と「営業権(のれん)」を差し引いた金額と考えると分かりやすいでしょう。

  • 繰延資産: 創立費や開業費など、本来は費用であるものの、その効果が将来に及ぶために資産として計上されるもの。
  • 営業権(のれん): 他の企業を買収した際などに発生する、超過収益力やブランド価値などの無形資産。

これらの換金性の低い資産を除いた、実質的な純資産が2,000万円以上必要です。

要件2:基準資産額が負債総額の7分の1以上であること

これは、自己資本で負債をどれだけカバーできているか、という財務の健全性を見るための指標です。借入金などの負債が多すぎないかをチェックされます。

例えば、負債総額が1億4,000万円ある場合、 1億4,000万円÷7=2,000万円 となり、基準資産額は少なくとも2,000万円以上必要になります。要件1で基準資産額が2,000万円あったとしても、負債がそれ以上に膨らんでいる場合は、この要件2をクリアできない可能性があるため注意が必要です。

要件3:自己名義の現金・預金の額が1,500万円以上であること

最後に、当面の事業資金、特に派遣労働者への給与支払いに充てるための、すぐに使えるお金が十分にあるかという要件です。これは、貸借対照表の「現金及び預金」の勘定科目で判断されます。法人名義の普通預金や当座預金、定期預金などが対象です。

許可更新時も全く同じ要件が求められます

労働者派遣事業の許可の有効期間は、新規許可の場合は3年、その後の更新では5年です。重要なのは、5年ごとの許可更新時にも、新規申請時と全く同じ3つの資産要件をクリアする必要があるということです。

「許可さえ取ってしまえば大丈夫」というわけではありません。日頃から健全な財務状態を維持できるよう、計画的な事業運営が求められます。更新直前になって「資産が足りない!」と慌てないよう、毎期の決算には注意を払いましょう。

社会保険労務士
松山 剛

労働者派遣事業の許可申請は、この他にも事業所の要件や教育訓練計画など、準備すべき書類や満たすべき要件が多岐にわたります。手続きが複雑で分かりにくいと感じたら、ぜひ一度、派遣に強い社会保険労務士にご相談ください。事業者様がスムーズに事業を開始・継続できるよう、専門的な知識でサポートいたします。