「これから労働者派遣事業を始めたい」 そうお考えの事業主様にとって、最初の関門となるのが労働者派遣事業の許可申請です。数ある許可要件の中でも、特に重要な役割を担うのが「派遣元責任者」の存在です。派遣元責任者は、派遣労働者の適正な雇用管理と保護を担う、事業運営の要となるポジションです。許可申請時には、この派遣元責任者を「誰を」「何人」選任するかが厳しく審査されます。
そもそも派遣元責任者とは?なぜ重要なのか
派遣元責任者とは、その名の通り、派遣元事業主(派遣会社)に選任され、派遣事業の運営と派遣労働者の雇用管理に関する責任を担う人のことです。労働者派遣法では、派遣元事業主に対して、事業所ごとに、その事業所に所属する派遣労働者の数に応じて、一定数以上の派遣元責任者を選任することを義務付けています。なぜなら、派遣労働者は雇用契約を結ぶ「派遣元」と、実際に仕事の指示を受ける「派遣先」が異なるという複雑な就労形態にあります。そのため、賃金、労働時間、休日、社会保険といった雇用に関する事柄や、職場でのトラブル、キャリアアップに関する相談など、派遣労働者が安心して働ける環境を確保し、適切にサポートする責任者が必要不可欠だからです。
許可行政庁(厚生労働省・労働局)は、事業主が派遣労働者を保護する体制をきちんと構築できるかという点を非常に重視しており、その中心人物である派遣元責任者の適格性を厳しく審査するのです。
【許可申請の必須要件】派遣元責任者が満たすべき6つの要件
派遣元責任者に選任されるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。一つでも欠けていると、許可は下りませんので、慎重に確認しましょう。
要件1:欠格事由に該当しないこと
まず大前提として、以下のような法律上の欠格事由に該当する人は、派遣元責任者になることができません。
- 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者
- 労働者派遣法、労働基準法、職業安定法などの労働関係法令に違反し、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者
- 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
- 労働者派遣事業の許可を取り消され、当該取消しの日から起算して5年を経過しない者 など
要件2:成年に達していること
- 未成年者は派遣元責任者になることができません。
要件3:3年以上の雇用管理の経験があること
これが最も重要な要件の一つです。派遣元責任者には、成年に達した後、3年以上の雇用管理の経験が求められます。「雇用管理の経験」とは、具体的に以下のような経験を指します。
- 人事または労務の担当者として、労働者の募集、採用、配置、教育訓練、労働時間管理、安全衛生管理などに従事した経験
- 事業主または役員(取締役など)として、従業員の労務管理全般に携わった経験
- 労働組合の専従役員としての経験
- 労働者派遣事業における派遣元責任者、または派遣先責任者としての経験
単に部下を持っていた、店長としてアルバイトのシフト管理をしていた、というだけでは「雇用管理の経験」とは認められにくい傾向があります。採用や解雇、労働条件の決定、教育訓練計画の策定といった、より専門的な人事労務に携わった経験が必要です。許可申請時には、この経験を職務経歴書などで具体的に証明する必要があります。
要件4:「派遣元責任者講習」を受講していること
派遣元責任者に選任される予定の人は、許可申請の受理日前3年以内に、厚生労働大臣の指定する機関が実施する「派遣元責任者講習」を受講し、修了している必要があります。
この講習では、労働者派遣法をはじめとする関係法令や、適切な労務管理、個人情報保護など、派遣元責任者として必要な知識を学びます。有効期間は3年間ですので、過去に受講したことがある方も、有効期間が切れていないか必ず確認してください。
要件5:専ら派遣元責任者の業務に専従できること
派遣元責任者は、その職務に集中するため、原則として他の業務との兼務は認められていません。
ただし、その事業所の規模が小さい場合など、常時雇用している労働者(派遣労働者を除く)の数が少なく、派遣元責任者としての職務遂行に支障がないと認められる場合に限り、例外的に兼務が許可されることがあります。また、近年ではテレワーク(在宅勤務)も普及していますが、派遣元責任者もテレワークは可能です。ただし、派遣労働者からの相談にいつでも応じられる、派遣先と速やかに連絡調整が取れるなど、職務を適切に遂行できる環境が整備されていることが条件となります。
要件6:外国人の場合は一定の在留資格があること
外国籍の方を派遣元責任者に選任する場合は、「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」といった身分・地位に基づく在留資格、または就労に制限のない在留資格が必要です。

労働者派遣事業の許可申請において、派遣元責任者の選任は避けて通れない、かつ非常に重要なプロセスです。要件を満たす人材の確保、特に「3年以上の雇用管理経験」の証明や、講習の受講タイミングなど、事前にしっかりと計画を立てて準備を進める必要があります。
派遣元責任者は、単なる許可取得のためだけの「名義人」ではありません。派遣事業のコンプライアンスを確保し、派遣労働者と良好な関係を築き、事業を健全に成長させていくための「要」となる存在です。
適切な派遣元責任者を選任し、育成していくことが、お客様(派遣先)と派遣スタッフから信頼される派遣会社になるための第一歩と言えるでしょう。
派遣事業の許可申請や派遣元責任者の要件について、少しでもご不明な点やご不安な点がございましたら、ぜひ一度、派遣法に強い社会保険労務士にご相談ください。専門家の視点から、貴社のスムーズな事業開始を力強くサポートいたします。
